IR資料の作り方(How to Prepare IR Materials)
IR資料とは何かを理解し、投資誘致を成功させるために、良いIR資料に盛り込むべき内容を整理する。
IR資料とは?
IRはInvestor Relationsの略であり、投資家に向けて企業を説明・PRし、関係を構築して投資を呼び込むために必要なあらゆる資料と活動を包括的に指す用語である。IR資料という場合、一般には資金調達のために企業が投資家へ提示する紹介資料を意味する。
IR資料に入れるべき内容
IR資料の目的は投資誘致であるため、投資家の視点から「なぜこの会社に投資すべきか」を説得力をもって示す必要がある。したがって、サービス概要、市場環境、製品/サービス説明、競争環境、実績、事業モデル、今後の成長計画、チーム構成など、事業全体に関わる内容を含めるべきである。
- ピッチデック(Pitch Deck):
- 短く強く、幅広い潜在投資家にポジティブな第一印象を残すことが目的
- 初期段階の資金調達で使用
- スライド10〜15枚程度で、簡潔かつ視覚的な資料中心で構成
- IRデック(IR Deck):
- 会社の深い財務情報と長期戦略を提供
- ある程度関心を示し始め、意思決定を控えた専門投資家に提供
- 投資家がより深い評価と判断を下せるようにする
- スライド20〜30枚程度で、より具体的な財務計画、市場分析、チーム構成、競合分析など詳細情報を提供
ミッション/ビジョン(Mission/Vision)
- 当社が提供しようとする本質的な価値は何か?
会社の核となるアイデンティティと言える部分であり、IR資料の最初に、当社のミッションとビジョンをそれぞれ1文で、簡潔かつ明確に表現するのがよい。
サービス概要
課題(Problem)
- 当該サービスが解決しようとする市場の課題は何か?
- 消費者はその課題をどれほど不便だと感じているか?
- その課題はなぜ重要なのか?
- 課題解決への需要はあるか?ターゲットは誰か?
ソリューション(Solution)
- 先に述べた課題を具体的にどう解決するのか?
- 既存手法と比べて、消費者および最終ユーザーが得られる利点は何か?
投資家が当該分野の専門家でないケースも多いため、開発者の視点ではなく消費者の視点でサービスを説明し、技術的な詳細は後で質問が来た場合などに個別対応するのがよい。
市場規模(Market Size)
市場規模を金額で直接設定すると、算出方法や複数の変数によって結果が大きく変わり得るうえ、反論が出るリスクも比較的大きい。
潜在ユーザー数、取引回数/頻度などの別指標を設定して提示すると、より安全かつ効果的に市場規模を示せる。
- TAM(Total Addressable Market, 全体市場): すべての競合を排除して世界市場シェア100%を達成するという理想的状況を仮定し、製品・サービスを全世界に提供する場合に理論的に到達可能な最大市場規模
- SAM(Service Available Market, 有効市場): 地理的・インフラ的・規制的制約を考慮したうえで現実的にサービス提供が可能で、当社が実際に狙う範囲の市場規模
- SOM(Service Obtainable Market, 収益市場): 競争環境、会社の実行能力、マーケティング戦略などを考慮したとき、SAMの中でも初期に実際に獲得できる市場規模
市場規模を推計する際、全体市場や有効市場の規模については第三者の市場調査資料を引用して具体的な数値・指標を示しつつ、肝心のスタートアップにとって当面重要な収益市場規模については「当該市場でシェアを何%達成すれば売上はいくらになる」という形で説明することが多い。正直に言うと、私も起業準備を始めた頃に社内で最初に作ったIR資料のドラフトでは、このように書いていた。
しかしこのやり方の問題は、投資家の立場からすると「市場の何%を取るか」という計画は信頼しにくい点にある。サービスを出したからといって簡単に市場を獲れるわけでもなく、漠然と当該市場の全構成員を対象にシェア何%を達成すると言っても説得力に欠ける。
狙う全体市場および有効市場が十分大きいことを示すと同時に、初期顧客層(Immediate Market)をどう捉えているか、そしてその後どの顧客層を段階的に追加攻略して収益市場を拡大していくのか、その論理を提示することが重要である。
事業タイミング
- 事業においてタイミングも非常に重要
- なぜ「今」この事業がうまくいき得るのか、なぜ「今」投資すべきなのかを投資家に説明できなければならない
- 技術的実現可能性、人々の行動様式の変化、社会的潮流、環境変化など、今この事業を実行するのに適している理由を提示すべき
製品/サービス説明(Product)
- 製品/サービスの主要な特徴・機能は何か?
- 具体的な動作方式、例は何か?
事業モデル(Business Model)
- どのように収益を得るのか?
- 誰が支払うのか?(最終ユーザーと支払者が常に一致するとは限らないため、実際に売上を発生させる顧客が誰かを明確にすべき)
- どこを課金するのか?価格設定はどうするのか?
競争環境(Competition)
- 主要な競合は誰か?
- 顧客の視点で、他社のサービス/製品に比べて当社のサービス/製品がどの点で優れており、どんな強みがあるか?
- どのサービスを競合サービスと定め、どの顧客を主要ターゲットとするのか?
競合をきちんと分析してこそ、投資家に対して市場状況を把握していることを効果的にアピールできる。
実績および市場参入戦略(Go-to Market Strategy)
- 事業成功において最も重要なKPIは何か?
- e.g. 注文件数、月間アクティブユーザー(MAU)、月間取扱高 など
- その指標を中心に、どのような実績があったか?
- 会社の主要なマーケティング手段・チャネルは?
- 新規顧客獲得の手段とコストはいくらか?
- *顧客生涯価値(LTV)はいくらか?
*顧客生涯価値(Customer Lifetime Value, LTV): 1人のユーザーが当該サービスを利用する全期間にわたって、総額いくらの利益をもたらすかを数値化したもの
KPI以外の付随的な指標は除くのがよい。
まだ売上のない超初期フェーズのスタートアップであれば
- 提供したいサービスの損益分岐点を設定して提示
- このとき収益関連指標を盛らず、保守的な観点で現実的に設定すべき
- 収益発生初年度の収益シナリオを提示し、その後数年間の売上計画を添えて、実際に継続成長できる確信を与えるのがよい
- 1年の短期予測
- 3年の中期予測
- 5年の長期予測
- 内容を一目で確認できるよう、グラフや表を積極的に活用
- 仮説検証スライドを含め、なぜそのKPIと売上シナリオを設定したのかを説得力をもって提示し、根拠を強化するのがよい
- 複数回の実験と仮説検証を通じて、想定売上シナリオに対する堅固な根拠を用意すべき
チーム構成(The Team)
- 全員を紹介するのではなく、代表自身を含め、核心的役割を担う主要メンバー中心に紹介
- 経歴・スキルは2〜3個程度に絞り、ロゴ等を活用して可読性よく提示
- 重要な役割を果たしてくれた/果たしている投資家や顧問がいれば、併せて記載するのもよい
今後の成長計画(Milestones)
- 時期別・フェーズ別に達成したい目標を提示
- 次の投資ラウンドまでの目標を設定するのが一般的(シードならシリーズA前まで、シリーズAならシリーズB前まで)
- 希望調達額と資金使途を提示
- このとき、区分単位を半年以上のように長く取りすぎず、2か月程度の単位で区切って提示
財務計画(Financials)
IRデックの場合、財務計画を含める必要がある。
- 今後3〜5年の財務計画表
- ユニットエコノミクス(Unit Economics): 顧客単位あたりの収入とコスト
- バーンレート(Burn rate): スタートアップにおける現金支出(創業費、研究開発費、その他費用など)のペース/比率
- 総収入と総費用
- EBITDAまたはキャッシュフロー計算書 など
- 非現実的な財務計画を提示しないよう注意すべき
- 予想売上は過大評価、必要コストは過小評価しがちなので、予想売上規模の算定は慎重に行うべき
- 必要コストは製品/サービス開発費および運営費などを考慮し、可能な限り正確に見積もる
投資ステージ別に強調すべきポイント
シード
- MVPを開発して市場反応を確認し、事業モデルの妥当性を検証する段階
- 初期仮説と事業モデル検証結果、MVP実験結果とそれに伴う売上を集中的に強調すべき
Pre-A
- 成長可能性を証明し、プロダクト開発・マーケティング・採用などに必要な追加資金を確保すべき段階
- 事業の主要KPIは何か、どのような活動を通じてどれだけ成長しているか、今後の成長可能性についての説明が必要
シリーズA
- 本格的に成長し、企業価値を高めていく段階
- この時点では仮説検証が終わっているべきであるため、事業成果の定量的結果で投資家の信頼を獲得すべき
いくつかのTips
- 最初の5枚は特に力を入れ、第一印象をポジティブにできるようにする
- 1枚目のミッション/ビジョンは最終スライドにもう一度入れるのもよい
- すべての内容は結論ファーストで伝える
- 投資対象は会社であるため、IR資料でもサービス名より会社名を優先する
- IR資料を読む潜在投資家は業界関係者とは限らないため、できるだけ易しい用語で噛み砕いて説明し、やむを得ず専門用語を使う場合は補足説明を付ける
- 市場課題とソリューションは混同せず分ける
- テキストはキーワード中心にし、画像を使う場合はスクリーンショットの多用を避けて可読性を高める
- 正確かつ具体的な数値は表やグラフで記載する
- チーム紹介、希望調達額と資金使途を漏らさないよう注意する
- 投資回収戦略も併せて提示するとよい
- 株主構成比率の計画も、完璧でなくても簡潔に提示する
- 本文に資料を詰め込みすぎず、必要なら別添資料として分ける
- 最終スライドには連絡先(メール、電話番号、氏名)を記載する
- フォントも非常に重要なので、Pretendardなど可読性の高いフォントを使い、崩れないようPDFで用意する
参考資料
企業開示チャネル KIND
https://kind.krx.co.kr/corpgeneral/irschedule.do?method=searchIRScheduleMain&gubun=iRMaterials
- 韓国取引所が運営する企業開示チャネル
- KOSPI、KOSDAQ、KONEXに上場する企業の開示情報を提供
- 上場企業のIR資料を確認でき、最近作成された他社IR資料の構成方法を確認できる
